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PFAS-フリー時代のハードシェル選び:Gore-Tex ePE徹底解説
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PFAS-フリー時代のハードシェル選び:Gore-Tex ePE徹底解説

公開: 2026年1月19日

約13分
ハードシェル Gore-Tex 環境技術 アルパイン
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結論 (The Verdict)

"2026年、主要ブランドがPFAS-フリーメンブレンに移行完了。Gore-Tex ePEの技術革新と性能を徹底解説し、用途別推奨モデルを紹介します。"

雪稜を登る登山者が着用するPFAS-フリーハードシェル、厳冬期の山岳環境

アウトドア業界の転換点

2026年、ハードシェル市場は静かな革命を完了した。Arc’teryx、Norrøna、Mammutなど主要ブランドが、PFAS(per- and polyfluoroalkyl substances)を意図的に添加しないメンブレン技術への移行を完了し、Gore-Tex ePE(expanded polyethylene)が新たな業界標準として確立されている。

PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれ、環境中で分解されず、人体への蓄積が懸念されてきた。従来の防水透湿メンブレンは、その優れた撥水性能のためにPFASを使用していたが、環境負荷と健康リスクの観点から、業界全体が代替技術の開発を進めてきた。

この記事では、Gore-Tex ePE技術の実際の性能、従来品との比較、そして2026年現在の推奨モデルを、技術的正確性と実用性の両面から解説する。ハードシェルの買い替えを検討する中級〜上級登山者にとって、環境と性能を両立する選択肢を提示する。

Gore-Tex ePEとは何か

PFAS-フリーメンブレンの構造

Gore-Tex ePE(expanded Polyethylene)は、従来のPTFE(polytetrafluoroethylene)ベースのメンブレンに代わる、ポリエチレンベースのPFAS-フリーメンブレンである。

Gore-Tex Pro ePEメンブレンの三層構造を示す技術図解

三層構造の詳細:

  1. 表地(Face Fabric):100%リサイクルナイロン(40〜100デニール)
    • 耐摩耗性と引裂強度を提供
    • PFC-free DWR(耐久撥水)処理
  2. ePEメンブレン:拡張ポリエチレン層
    • 意図的に添加されたPFASを使用しない構造
    • 微細な孔(0.2〜10マイクロメートル)が防水性と透湿性を両立
  3. 裏地(Backer):軽量保護層
    • メンブレン保護と快適性を提供

従来品との違い

従来のGore-Tex Proと比較した際の主な違いは以下の通り:

特性従来品(PTFE)Gore-Tex ePE
メンブレン素材PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ePE(拡張ポリエチレン)
PFAS使用意図的添加あり意図的添加なし(50ppm未満)
耐水圧28,000mm以上28,000mm以上(同等性能)
透湿性(RET値)<13 m²Pa/W<13 m²Pa/W(同等性能)
重量基準値約10〜15%軽量化
耐久性同等以上(改良された構造)
環境負荷高(PFAS残留)大幅に低減

重要な技術的進歩:

  • 耐久性の維持:ePEメンブレンは、従来のPTFEと同等以上の引裂強度と耐摩耗性を実現
  • 軽量化:メンブレン構造の最適化により、約10〜15%の重量削減
  • 透湿性能:ポリエチレンの分子構造により、水蒸気透過性は従来品と同等
  • 長期性能:DWR処理の持続性が向上し、メンテナンスサイクルが延長

Gore-Tex ePEメンブレンの電子顕微鏡画像と微細構造

性能比較:実際の使用感

防水性能の実際

耐水圧28,000mm以上を維持し、従来のGore-Tex Proと同等の防水性能を発揮する。実際の登山環境では以下のような状況で検証されている:

  • 豪雨環境:3時間以上の連続降雨でも浸水なし
  • 圧力下:ザックのショルダーストラップ接触部でも浸水なし
  • 長期使用:50日以上の使用後も防水性能の低下なし

ユーザーレポートからの知見: Arc’teryx Beta ARやMammut Nordwand Advancedを使用した2025/2026冬季の北アルプスでの検証では、従来品と比較して体感できる防水性能の差はほぼ報告されていない。

透湿性能の評価

RET値<13 m²Pa/W(非常に高い透湿性)を維持し、激しい運動時の蒸れを効果的に軽減する。

透湿性テストの結果

  • 低活動時:ほぼ無風状態でも体温と外気温の差により透湿作用が機能
  • 高活動時:登攀やラッセルなど激しい運動時でも内部結露が最小限
  • ピットジップ併用:適切なベンチレーション管理により快適性が大幅向上

耐久性と重量のバランス

ePE技術により、約10〜15%の軽量化と同等以上の耐久性を両立

重量比較(メンズMサイズ)

モデル従来品重量ePE版重量軽量化率
Arc’teryx Beta AR約510g約460g約10%削減
Arc’teryx Alpha SV約524g約490g約6.5%削減

※Mammut Crater Pro HSは最初からePE設計のため、従来品比較なし(508g)

耐久性の実証

  • 耐摩耗試験:50回の岩壁接触テストで表地破損なし
  • 引裂強度:40〜100デニール表地により、従来品と同等の引裂強度
  • 長期使用:2年以上の定期使用でメンブレン劣化の報告なし

2026年推奨モデル

アルパインクライミング向け

技術的登攀を主軸とする登山者向けの最適モデル。

Arc’teryx Alpha SV

Arc'teryx Alpha SVジャケットの詳細、ヘルメット対応フードとピットジップ

スペック概要:

  • 重量約490g(メンズM)
  • 価格¥151,800(税込、日本国内)
  • 素材:100D Gore-Tex Pro ePE(3層リサイクルナイロン)
  • 耐水圧:28,000mm以上
  • 透湿性:RET<13 m²Pa/W

特徴:

  • 最高レベルの耐久性:100デニール表地により岩壁や氷壁での酷使に対応
  • ヘルメット対応StormHood™:ワンハンド調整可能、視界確保に優れる
  • ピットジップ:激しい運動時のベンチレーション調整
  • RECCO®リフレクター内蔵:雪崩埋没時の捜索支援

推奨ユーザー: 冬季アルパインクライミング、アイスクライミングを主軸とし、最高レベルの保護性能を求める登山者。価格は高額だが、長期使用を前提とすれば投資価値は高い。

評価★★★★★(5/5)


Mammut Crater Pro HS Hooded Jacket

Mammut Crater Pro HSジャケットのクライミングハーネス対応ポケット

スペック概要:

  • 重量約508g(メンズM)
  • 価格¥88,000〜110,000(税込、日本国内価格)
  • 素材:3層Gore-Tex Pro ePE(PFC-free ePEメンブレン、80Dx80D 100%リサイクルポリアミド表地)
  • 耐水圧:28,000mm
  • 透湿性:RET<13 m²Pa/W

特徴:

  • Gore-Tex Pro ePE技術:PFAS-freeメンブレンで環境配慮と高性能を両立
  • ヘルメット対応フード:ストームプルーフ設計で悪天候に対応
  • X-ベンテッド換気システム:脇下ジッパーで効率的な温度調整
  • ハーネス対応ポケット:外側・内側ともにクライミング装備と干渉しない設計
  • リサイクル素材:100%リサイクルポリアミド表地とPFC-free DWR処理

推奨ユーザー: アルパインクライミング、冬季登山、スキーツーリングなど、厳しい環境下で高い保護性能を求める登山者。Alpha SVより手頃な価格で本格的なePE技術を採用。

評価★★★★★(5/5)


冬山登山・バックカントリー向け

非技術的ルートの冬季登山やバックカントリースキーに最適なモデル。

Arc’teryx Beta AR

Arc'teryx Beta ARジャケットの全体像、レギュラーフィットと汎用性

スペック概要:

  • 重量約460g(メンズM)
  • 価格約¥110,000(税込、日本国内価格)
  • 素材:ハイブリッド構造 - N40d Gore-Tex Pro ePE(本体)、N80d(高摩耗部)
  • 耐水圧:28,000mm以上
  • 透湿性:RET<13 m²Pa/W

特徴:

  • ハイブリッド構造:軽量性と耐久性を部位別に最適化
  • ヘルメット対応DropHood™:調整が容易で視界が広い
  • レギュラーフィット:ミドルレイヤーとの重ね着に余裕あり
  • 汎用性:アルパインからバックカントリーまで幅広い用途に対応

推奨ユーザー: オールラウンドな冬山活動を行う登山者。Alpha SVほどの極限環境耐性は不要だが、高い性能を求めるユーザーに最適。

評価★★★★☆(4.5/5)


Norrøna Trollveggen Gore-Tex Pro Light

Norrøna Trollveggen Gore-Tex Pro Lightジャケットの軽量性とミニマルデザイン

スペック概要:

  • 重量約432g(メンズL)
  • 価格¥90,200〜97,900(税込、日本国内価格)
  • 素材:Gore-Tex Pro Light with ePE(軽量3層構造、40D本体/70Dx160D補強部)
  • 耐水圧:28,000mm以上
  • 透湿性:RET 6(優れた透湿性)

特徴:

  • 軽量設計:432g(L)という軽量性でPro級保護性能
  • 北欧デザイン:ミニマルで洗練された美学
  • 2ウェイアンダーアーム通気:効率的なベンチレーション
  • PFAS-free完全移行:2025年までに全製品PFAS-free化を達成したブランド哲学

推奨ユーザー: 軽量性を重視しつつ、プロテクション性能を妥協したくない登山者。北欧ブランドの美学と環境思想に共感するユーザーに特に推奨。

評価★★★★☆(4.5/5)


ファストパッキング・軽量志向向け

軽量性を最優先し、スピードを重視する活動向けのモデル。

Rab Kinetic Alpine 2.0

スペック概要:

  • 重量約422g(メンズM)
  • 価格約¥50,000(税込、推定日本国内価格)
  • 素材:3層Proflex™ストレッチ素材(ポリエステル + PUメンブレン)
  • 耐水圧:10,000mm
  • 透湿性:35,000g/m²/24hrs

特徴:

  • 軽量性:422gという軽量性で高い運動性能
  • ストレッチ性:動きやすさを重視した素材選択
  • コストパフォーマンス:約5万円という手頃な価格帯
  • 注意点Gore-Tex ePE非採用、PFAS-free未確認

推奨ユーザー: ファストパッキングやトレイルランニング志向の軽量山行を行うユーザー。極限環境よりもスピードと運動性能を優先する活動向け。

評価★★★★☆(4/5)

注意:このモデルはGore-Tex ePE非採用であり、PFAS-freeではない可能性がある。環境配慮を最優先する場合は他モデルを検討すること。


選定基準:用途別の選び方

用途別優先度マトリクス

用途耐久性軽量性透湿性運動性推奨モデル
冬季アルパインクライミング最重要重要重要最重要Alpha SV、Crater Pro
一般冬山登山重要重要重要重要Beta AR、Trollveggen
バックカントリースキー重要重要最重要重要Beta AR、Trollveggen
ファストパッキングやや重要最重要最重要最重要Kinetic Alpine 2.0
トレッキング重要やや重要重要やや重要Beta AR、Trollveggen

体型・フィット選択のポイント

フィット感の違い:

  • Arc’teryx(レギュラーフィット):ミドルレイヤーとの重ね着に十分な余裕、日本人体型にも適合しやすい
  • Mammut(アスレチックフィット):やや細身の立体裁断、運動性能重視
  • Norrøna(スリムフィット):北欧サイズ感、日本人は1サイズ大きめを検討

試着時の確認事項:

  1. 腕を頭上に伸ばした時:裾が上がりすぎないか、腹部が露出しないか
  2. ハーネス着用想定:チェストポケットにアクセスできるか
  3. ヘルメット併用:フードがヘルメットに干渉しないか、視界が確保できるか

予算と投資価値の考え方

投資価値の計算:

高品質ハードシェルの耐用年数は適切なメンテナンスにより10年以上。年間コストで考えると:

  • Alpha SV(¥151,800):10年使用で年間¥15,180
  • Beta AR(¥110,000):10年使用で年間¥11,000
  • Crater Pro(¥88,000〜110,000):10年使用で年間¥8,800〜11,000
  • Trollveggen(¥90,200〜97,900):10年使用で年間¥9,020〜9,790

購入判断のポイント:

  1. 使用頻度:年間20日以上の冬山活動なら高価格帯も投資価値あり
  2. 活動内容:技術的登攀が主体ならAlpha SV/Nordwand、一般登山ならBeta AR/Trollveggen
  3. 環境配慮:PFAS-free製品を選ぶことで長期的な環境負荷軽減に貢献
  4. メンテナンス:適切な洗濯とDWR再処理により性能を長期維持可能

よくある質問

Q1: Gore-Tex ePEは従来品より性能が劣るのか?

A: いいえ。防水性能(耐水圧28,000mm以上)、透湿性(RET<13)ともに従来品と同等性能を維持しています。むしろ、約10〜15%の軽量化と改良された耐久性により、総合性能は向上しています。実際のフィールドテストでも、従来品との体感差はほとんど報告されていません。

Q2: 価格が高いが、本当に価値があるのか?

A: 適切なメンテナンスにより10年以上使用可能であり、年間コストで考えると合理的な投資です。例えば¥90,000のシェルを10年使用すれば、年間¥9,000。安価な代替品を2〜3年ごとに買い替えるより、長期的には経済的かつ環境負荷も低減できます。

Q3: メンテナンスはどうすればよいか?

A: 以下の基本的なメンテナンスで性能を長期維持できます:

  1. 洗濯:年に2〜3回、ぬるま湯(30〜40℃)で洗濯用洗剤使用(柔軟剤不使用)
  2. DWR再処理:撥水性低下時にDWR処理スプレーまたは洗剤を使用
  3. 保管:直射日光を避け、通気性の良い場所で吊り保管
  4. 修理:小さな破れは早期に修理テープで対処

Q4: PFAS-freeは本当に環境に良いのか?

A: はい。PFASは環境中で分解されず、数十年〜数百年残留します。ePE技術により、製品ライフサイクル全体でのPFAS排出を大幅に削減できます。ただし、完全にゼロではなく(50ppm未満の微量は残留)、継続的な技術改良が進行中です。

Q5: 日本国内での購入はどこがベストか?

A: 以下の購入方法を推奨します:

  • Arc’teryx:公式オンラインストア、または正規取扱店(カモシカスポーツ、好日山荘等)
  • Norrøna:日本正規代理店(アルバートル)、一部専門店
  • Mammut:公式オンラインストア、正規取扱店
  • Rab:正規取扱店、一部オンラインショップ

注意:並行輸入品は価格が安い場合もありますが、国内保証やアフターサービスが受けられない可能性があります。

Q6: 既存のGore-Tex Proジャケットを持っているが、買い替えるべきか?

A: 既存のジャケットが正常に機能している限り、買い替えの必要はありません。環境負荷の観点からは、現在の製品を可能な限り長く使用することが最も持続可能です。買い替えを検討するタイミングは:

  • メンブレンが劣化し、浸水が発生した場合
  • 表地の破損が修理不可能な範囲に及んだ場合
  • DWR処理を繰り返しても撥水性が回復しない場合

まとめ:環境と性能を両立する新時代

2026年、ハードシェル市場はPFAS-フリー技術により、環境配慮と性能の両立という新たな地平に到達した。Gore-Tex ePEは、従来品と同等以上の防水性能・透湿性・耐久性を維持しつつ、環境負荷を大幅に削減する技術革新である。

記事の要点:

  1. 技術革新:Gore-Tex ePEは従来品と同等の性能(耐水圧28,000mm以上、RET<13)を維持し、約10〜15%軽量化を実現
  2. 環境配慮:意図的に添加されたPFASを使用せず、長期的な環境負荷を削減
  3. 推奨モデル
    • 極限環境:Arc’teryx Alpha SV(¥151,800)、Mammut Crater Pro(¥88,000〜110,000)
    • 汎用性:Arc’teryx Beta AR(¥110,000)、Norrøna Trollveggen(¥90,200〜97,900)
    • 軽量志向:Rab Kinetic Alpine 2.0(¥49,500、PFAS-free未確認)
  4. 投資価値:10年以上の使用を前提とすれば、年間コストは合理的
  5. 持続可能性:既存製品の長期使用が最も環境負荷が低い選択

山頂に立つ登山者、PFAS-フリーハードシェルが象徴する持続可能な登山

最後に:

高品質シェルは優れた保護性能を提供しますが、それは無謀な行動を正当化するものではありません。適切な判断、経験、そして山への敬意が、安全な登山の基盤です。PFAS-フリー技術は、私たちが愛する山岳環境を次世代に引き継ぐための、小さくとも確実な一歩です。

Peak & Trailは、環境と性能の両立を追求する登山者を支援します。


参考情報:

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