
バックパック選びは、登山ギアの中で最も難しい選択の一つだ。容量、背面長、機能、重量—比較要素が多く、「最初にどれを買うべきか?」という問いに明確な答えを見つけるのは容易ではない。
しかし、適切なバックパックは登山の快適性を劇的に向上させる。荷重分散が最適化されれば疲労が軽減され、アクセス性が高ければ行動中のストレスが減り、拡張性があれば用途の幅が広がる。本記事では、容量と用途の関係、背面長フィッティングの重要性、そして具体的なモデル比較を通じて、長く使える最初の一つを選ぶための指針を提供する。
容量と用途の関係|日帰りから山小屋泊まで
バックパック選びの第一歩は、用途に応じた容量の理解だ。容量が大きすぎれば無駄な荷物を詰め込んでしまい、小さすぎれば必要な装備が入らない。以下は一般的な目安だが、個人の装備量やパッキング技術によって変動する。
容量別の用途目安
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15〜25L: 日帰り登山(軽量装備、夏季限定)
- 防寒着、レインウェア、水分、行動食が中心
- 冬季や長時間行動には不足する可能性
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25〜35L: 日帰り〜山小屋1泊(最も汎用性が高い)
- 日帰り装備+着替え、寝袋(山小屋泊)が収まる
- ロールトップ式なら容量調整でさらに柔軟性が増す
- 初心者の「最初の一つ」として最適
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40〜50L: テント泊1〜2泊
- テント、寝袋、マット、調理器具を含む
- 冬季装備や食料増加で容量が不足する場合も
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60L以上: テント泊3泊以上、冬季縦走
- 長期行動や厳冬期装備に対応
- 重量増加と取り回しの悪化がトレードオフ

なぜ28L前後が「最初の一つ」として最適なのか
初心者が最初に選ぶべきは、**25〜35L(特に28〜30L前後)**のバックパックだ。その理由は以下の通り。
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日帰りから山小屋泊まで対応できる汎用性
- 日帰り登山では余裕を持って装備を収納でき、緊急装備(ツェルト、ファーストエイド)も携行可能
- 山小屋泊では着替え、寝袋、防寒着を追加しても収まる
- 用途が広がっても買い替え不要
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取り回しの良さと軽量性のバランス
- 40L以上は空荷でも重く、狭い山道で取り回しが悪い
- 25L未満は装備増加に対応できず、季節や行動時間の制約が大きい
- 28L前後は軽量性と収納力の最適点
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ロールトップ式なら容量調整が柔軟
- 荷物が少ないときはコンパクトに圧縮
- 荷物が多いときは拡張して対応
- トップリッド式より自由度が高い
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スキルアップ後も長く使える
- テント泊にステップアップしても、軽量化技術と組み合わせれば1〜2泊に対応可能
- ファストパッキングやトレイルランニングにも転用できる
「次はテント泊用に40Lを買う」のではなく、「28Lで軽量化技術を磨く」方が、長期的なスキル向上につながる。
ロールトップ vs トップリッド|拡張性と使い勝手の比較
バックパックのクロージャーシステムには主にロールトップ式とトップリッド式がある。それぞれの特性を理解することで、自分の使い方に合った選択が可能になる。
ロールトップ式の特徴
メリット:
- 容量調整が柔軟: ロール回数で容量を5〜10L程度調整可能
- 防水性が高い: 開口部を巻き込むことで雨天時の浸水リスクを軽減
- 軽量: トップリッド不要で構造がシンプル
- アクセス性: 大きく開くため荷物の出し入れがスムーズ
デメリット:
- 小物収納が少ない: トップリッド式のようなポケットがない場合が多い
- クイックアクセスが難しい: 行動中に頻繁に使うものは別ポケットに入れる必要
代表モデル:
- Hyperlite Mountain Gear Aero 28
- Arc’teryx Alpha FL 30
- モンベル アルパインパック30
トップリッド式の特徴
メリット:
- 小物収納が豊富: トップリッドにポケットがあり、行動食やヘッドランプなどすぐ取り出せる
- 伝統的な安心感: 長年の実績があり、多くの登山者に馴染み深い
- 取り外してサブバッグに: モデルによってはトップリッドをショルダーポーチとして使用可能
デメリット:
- 容量調整の制約: ロールトップほど柔軟に拡張できない
- 重量増: トップリッドとバックル機構で50〜150g程度重くなる
代表モデル:
- Osprey Talon 33
- Gregory Zulu 30
どちらを選ぶべきか?
| 用途・優先事項 | 推奨タイプ |
|---|---|
| 日帰り〜山小屋泊を1つで対応したい | ロールトップ |
| 小物をすぐ取り出したい | トップリッド |
| 軽量性を重視 | ロールトップ |
| 雨天時の防水性を重視 | ロールトップ |
| 伝統的な使い勝手を好む | トップリッド |

初心者にはロールトップ式を推奨する。容量調整の柔軟性が、用途の拡大や装備量の変化に対応しやすいからだ。
背面長とフィッティング|快適性を左右する最重要要素
どれだけ優れたバックパックでも、背面長が合わなければ快適性は得られない。背面長(トルソーレングス)とは、腰骨上部(腸骨稜)から首の付け根(第7頸椎)までの長さを指し、この寸法に合わせてバックパックを選ぶことで、荷重が腰と肩に適切に分散される。
背面長の測り方
- 腸骨稜を確認: 腰骨の最も高い部分に手を当てる
- 首の付け根を確認: 頭を前に倒したときに突き出る骨(第7頸椎)を触る
- 距離を測定: メジャーで2点間の距離を測る
- 38〜43cm: S/Mサイズ(小柄な体型)
- 43〜48cm: M/Lサイズ(標準的な体型)
- 48〜53cm: L/XLサイズ(大柄な体型)
フィッティングの確認ポイント
正しくフィッティングされたバックパックは以下の特徴を持つ:
- ヒップベルトが腸骨稜の上に乗る: 荷重の60〜80%を腰で支える
- ショルダーストラップが肩にフィット: 隙間なく密着し、肩から滑り落ちない
- ステルナムストラップが胸骨の上部に位置: 呼吸を妨げない高さ
- 背面パッドが背中全体に接触: 荷重が均等に分散される

安全に関する注意: 背面長が合わないバックパックは肩や腰への負担を増大させ、長時間行動で疲労や痛みを引き起こす。購入前に必ず実際に背負い、荷物を入れた状態でフィッティングを確認すること。
調整可能な背面システム
一部のモデルは背面長調整機構を備え、体型変化や複数人での共有に対応できる。
- Osprey Talon 33: 連続調整式ハーネスで幅広い体型に対応
- Gregory Zulu 30: 調整可能な背面システムで精密なフィッティング
ただし、調整機構は重量増(50〜100g)とコスト増を伴うため、自分専用で体型が安定している場合は固定式で十分だ。
機能比較|具体的なモデル紹介
ここでは、28〜33Lの代表的なモデルを比較する。すべて長く使える品質を持つプレミアムブランドから選定した。
比較表: 28〜33Lバックパック
| モデル | 容量 | 重量 | 価格(税込) | クロージャー | 背面長調整 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| モンベル アルパインパック30 | 30L | 1.47kg | ¥26,400 | ロールトップ | 3サイズ展開 | 防水性、3Dフィットステー、トップリッド取り外し可 |
| Hyperlite Mountain Gear Aero 28 | 28L | 506g | $349〜 | ロールトップ | 2サイズ展開 | 超軽量、Dyneema素材、ベスト式ハーネス |
| Arc’teryx Alpha FL 30 | 30L | 567g | — | ロールトップ | 固定式 | アルパインクライミング特化、Hadron素材、RECCO反射板 |
| Osprey Talon 33 | 33L | 1.26kg | ¥31,900 | トップリッド | 連続調整式 | AirScapeバックパネル、豊富なポケット、PFCフリーDWR |
| Gregory Zulu 30 | 30L | 1.19〜1.42kg | — | トップリッド | 調整可能 | 快適な背負い心地、通気性、複数サイズ展開 |
モンベル アルパインパック30

最適ユーザー: コストパフォーマンス重視、防水性を求める登山者
主な特徴:
- ロールアップシステム+アクアバリアサック: 優れた防水性で雨天時も安心
- 3Dフィット・ステー: アルミニウム製ステーが体の動きに追随し、快適なフィット感
- スーパーフィット ショルダーハーネス: 荷重を肩・脇・背中に分散し、ブレを防止
- 取り外し可能トップリッド: ショルダーポーチとして単独使用可能
- 価格: ¥26,400(税込)
長所:
- 国内ブランドで入手性が高く、サポートが充実
- 防水性能が高く、日本の多雨環境に適している
- 背面長3サイズ展開(49/53/57cm)で幅広い体型に対応
短所:
- 重量1.47kgは他モデルより重い(超軽量志向には不向き)
- デザインは機能優先で、ミニマリスト美学には欠ける
Hyperlite Mountain Gear Aero 28
最適ユーザー: 超軽量志向、ファストパッキング、トレイルランニング
主な特徴:
- 重量506g(Mサイズ): 圧倒的な軽量性
- Dyneema複合素材: 耐久性と軽量性を両立
- ベスト式ハーネス: 水筒、行動食、スマートフォン用のポケットを統合
- ロールトップ+底部ポケット: アクセス性と拡張性
- 価格: $349〜$569.95(約¥58,000〜¥95,000)
長所:
- 他を圧倒する軽量性で長時間行動の疲労を軽減
- ベスト式ハーネスで行動中のアクセス性が極めて高い
- ロールトップで容量調整が柔軟
短所:
- 価格が高く、国内入手が困難(輸入が必要)
- ヒップベルトが1インチウェビングで荷重分散が限定的
- 超軽量ゆえに重量物(10kg以上)には不向き
Arc’teryx Alpha FL 30

最適ユーザー: アルパインクライミング、スピード登山、技術的な山行
主な特徴:
- 重量567g(20オンス): 超軽量ながら高耐久
- Hadron AC² LCP素材: 315デニールの高耐水・耐摩耗性グリッドファブリック
- RollTop™クロージャー: 直感的な開閉システム
- クライミング特化機能: アイスアックスループ×2、クランポン圧縮システム、RECCO反射板
- PFAS準拠: 環境配慮型素材
長所:
- アルパインクライミングに最適化された機能配置
- 軽量性と耐久性の高次元バランス
- Arc’teryxの洗練されたデザインと品質
短所:
- 価格非公開(プレミアム価格帯と推定)
- 一般登山にはオーバースペック
- ヒップベルトが4cm幅ウェビングで重量物に不向き
Osprey Talon 33

最適ユーザー: 初心者〜中級者、快適性と汎用性重視
主な特徴:
- 重量1.26kg: 軽量と機能のバランス
- AirScapeバックパネル: インジェクション成形で通気性と快適性
- 連続調整式ハーネス: 背面長調整で幅広い体型に対応
- 豊富なポケット: トップリッド、フロントメッシュ、サイドメッシュ、ヒップベルトポケット
- 価格: ¥31,900(税込)
- リサイクル素材+PFCフリーDWR: 環境配慮
長所:
- 快適な背負い心地で長時間行動に適している
- ポケットが豊富で小物整理がしやすい
- 背面長調整で体型変化や複数人共有に対応
短所:
- ロールトップほど容量調整の柔軟性がない
- トップリッド分の重量増
Gregory Zulu 30
最適ユーザー: 快適性最優先、通気性重視
主な特徴:
- 重量1.19〜1.42kg(サイズにより変動)
- 調整可能な背面システム: 精密なフィッティング
- 優れた通気性: 背面パネルデザインで蒸れを軽減
- トップリッド式: 伝統的な使い勝手
長所:
- Gregory特有の快適な背負い心地
- 通気性が高く、夏季の暑さに強い
- 複数サイズ展開で体型に合わせやすい
短所:
- 重量がやや重い
- 容量調整の柔軟性はロールトップに劣る
最初の一つの選び方|推奨モデルと次のステップ
タイプ別推奨モデル
| 優先事項 | 推奨モデル | 理由 |
|---|---|---|
| コスパと汎用性 | モンベル アルパインパック30 | 防水性、機能性、価格のバランスが最良 |
| 超軽量志向 | Hyperlite Mountain Gear Aero 28 | 506gの圧倒的軽量性、ファストパッキング対応 |
| クライミング特化 | Arc’teryx Alpha FL 30 | アルパイン機能、耐久性、洗練されたデザイン |
| 快適性重視 | Osprey Talon 33 | 通気性、豊富なポケット、背面長調整 |
| 通気性最優先 | Gregory Zulu 30 | 優れた背負い心地と通気性 |
最初の一つを選ぶ際の3つのステップ
-
用途を明確にする
- 主に日帰りか? 山小屋泊も視野に入れるか?
- 年間何回登山するか?(頻度が高いほど投資価値が上がる)
-
背面長を測定し、試着する
- 必ず実際に背負い、荷物を入れた状態で確認
- ヒップベルトが腸骨稜に乗るか、ショルダーストラップが肩にフィットするかをチェック
-
優先事項を絞る
- 軽量性 vs 快適性 vs コストパフォーマンス
- ロールトップ vs トップリッド
- 機能の多さ vs シンプルさ
Peak & Trailの推奨: 初心者にはモンベル アルパインパック30を第一候補とする。防水性、機能性、価格のバランスが優れ、日本の山岳環境に最適化されている。超軽量志向ならHyperlite Mountain Gear Aero 28、アルパイン志向ならArc’teryx Alpha FL 30を検討する価値がある。
次のステップ: スキルアップと装備展開
最初の28L前後のバックパックを手に入れたら、以下のステップで経験を積む:
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日帰り登山で使い込む
- パッキング技術を磨き、自分の装備量を把握
- フィッティング調整を繰り返し、最適な設定を見つける
-
山小屋泊に挑戦
- 容量の拡張性を活かし、寝袋と着替えを追加
- ロールトップ式なら容量調整で対応可能
-
軽量化技術を学ぶ
- 装備を見直し、不要なものを削減
- 28Lでテント泊1〜2泊に対応できるスキルを目指す
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用途に応じて2つ目を検討
- テント泊が増えれば40〜50Lを追加
- トレイルランニングに興味が出れば15〜20Lを追加
- ただし、安易に大容量を買わず、まず軽量化技術で対応する
まとめ|長く使える一つを選ぶために
バックパック選びは、容量、背面長、機能、重量の総合的な判断が求められる。しかし、最初の一つは25〜35L(特に28〜30L前後)のロールトップ式を選ぶことで、日帰りから山小屋泊まで幅広く対応でき、用途の拡大にも柔軟に対応できる。
重要なのは、バックパックに合わせて装備を選ぶのではなく、自分の登山スタイルに合わせてバックパックを選ぶこと。そして、購入後は使い込むことで、パッキング技術とフィッティング調整を磨き、装備を自分の体の一部にする。
高品質なバックパックは10年以上使える投資だ。最初の選択を慎重に行い、長く付き合えるパートナーを見つけてほしい。
安全な登山を。